その店は、地図に載っていない場所への地図を売っていた。
路地の奥、石畳が途切れるあたりに、看板もなく存在している。扉を開けると紙とインクの匂い、壁一面に丸められた地図が詰め込まれた棚。
カウンターにいたのは、十七か十八くらいの少女だった。銀色の短い髪、作業台の上に広げた大きな白紙に、細い線を引いている。
「何をお探しですか」顔を上げずに彼女は言った。
「地図を」と僕は言った。
「どこへ行きたいんですか」
「わからない」と僕は答えた。「だから地図が必要なんです」
少女はようやく顔を上げた。目が、少し金色だった。
「行きたい場所がわからない人に、うちは地図を売りません」と彼女は言った。「でも——」
懐から小さな羅針盤を取り出した。銀色で、北を指すべき針が、真北ではなく僕の方を向いていた。
「これは『行くべき場所』を指します。欲しい場所じゃなくて、あなたが今必要な場所を」
「違いは?」
「たいていの人は、欲しいものと必要なものが一致していない」
羅針盤を受け取った瞬間、針が動いた。
北でも南でもなく、どこか斜め上——この街の、まだ僕が行ったことのない方角を指していた。
「代金は」と僕は聞いた。
「戻ってきたときに、話を聞かせてください」と少女は言った。「それで十分です」
僕は羅針盤を握りしめて、扉を出た。
──(第2話へつづく)