壁の向こうの声 第1話「引越し初日」

引越し初日の夜、壁が三回鳴った。

午前2時ちょうど。コン、コン、コン。

古いマンションだから、と思った。築30年、配管の音か何かだろう。段ボールの山に囲まれながら、僕は再び横になった。

二日目も、同じ時刻に三回鳴った。

三日目も。


管理会社に問い合わせると、隣の201号室は「長期空室」だと言われた。前の住人が退去してから一年以上、誰も入っていないという。

「配管の音じゃないですか」と担当者は言った。

「毎晩午前2時ちょうどに、三回だけ?」

少し間があった。

「……一度確認してみます」


確認の結果は「異常なし」だった。

その夜、僕は壁に耳をつけて2時を待った。

コン。

コン。

コン。

確かに聞こえた。壁の、すぐ向こうから。

試しに、僕も三回叩いてみた。

返事が、来た。

六回。

──(第2話へつづく)

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール