壁の向こうの声 第2話「6回の意味」

第2話 6回の意味

3回叩いたら、6回返ってきた。

その事実を朝になってもまだ考えていた。空室のはずの隣から、壁越しに音が返ってくる。しかも2倍。

偶然だ、と思おうとした。建物の構造音か、配管の振動か。でも「3回」に対して「6回」というのは、あまりにも整然としている。

昼間、廊下に出て隣の部屋の前に立った。ドアは古びた木製で、すりガラスの明かり取りが曇っていた。郵便受けには何も入っていない。表札もない。

耳を澄ましても、中からは何も聞こえない。

管理会社に電話した。「隣の部屋って、今入居者いますか?」

担当者は少し間を置いた後、「現在は空室になっております」と答えた。「何かありましたか?」

「いえ、気になっただけです」と言って電話を切った。

その夜、また2時になった。

壁の音を待ちながら、布団の中で息を殺していた。

3回。

やはり来た。低く、規則的に。

今夜は、叩き返さなかった。

──(第3話へつづく)

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