眠れない君へ 第2話「深夜の約束」

第2話 深夜の約束

「ファミレスでいい?」

涼花からのLINEは、深夜1時を過ぎた頃に届いた。僕はしばらくスマホを持ったまま、その文字を眺めていた。ファミレス。深夜。涼花。画面の光が暗い部屋に浮かび上がる。返信すべきか、無視すべきか。そんなことを考えていた自分に、ようやく気づいた。

「どこがいい?」と返すと、「駅前のデニーズ。朝まで開いてる」と即答が来た。こんな時間に会おうと言い出したのは彼女なのに、返信は妙にテキパキしている。眠れない人間の文章じゃない。でも、眠れる人間がこんな時間にLINEするだろうか。

僕は天井を見た。窓から漏れる街灯の光が、天井に薄く映っている。午前1時。大学のレポートはまだ終わっていないし、明日の授業も朝9時からだ。普通なら、こんな誘いに乗るはずがない。でも、涼花からの連絡というのは、そういう「普通」を簡単に壊してしまう力があった。

「いつにする?」

「明後日の深夜2時。来られる?」

考える時間は3秒もなかった。「行く」と打った。送信ボタンを押した瞬間、胸の奥に小さな火が灯ったような感覚がした。それが期待なのか、不安なのか、まだ判断できなかった。

涼花のことを初めてちゃんと意識したのは、去年の冬だ。ゼミが同じで、レポートの提出期限を間違えていた僕に「今夜中だよ」と教えてくれたのが彼女だった。声は静かだったけど、目は笑っていなかった。その時のことを今でも覚えている。図書館の隅で、彼女は淡々と事実を告げた。周りの人間には見えない、何かを背負っているような表情で。

以来、なんとなく気になっていた。接点がなかっただけで。もしあの日、他の誰かが教えてくれていたら、今ここにいなかっただろう。その後、何度も講義で顔を合わせるようになったけど、彼女はいつも一人だった。食堂でも、図書館でも。まるで周囲と違う時間を生きているように。

深夜に呼び出すような子だとは思っていなかったけど、そう言えば最初から、あの目は少し遠い場所を見ていた気がした。眠れていない目。それが何を意味しているのか、僕はまだ知らなかった。

約束の夜まで、あと二日。

その二日間は、妙に長く感じられた。授業も上の空で、友人との会話も上滑りしていた。深夜2時。駅前のデニーズ。涼花。そのすべてが頭の片隅から離れなかった。

僕はベッドに横たわり、もう一度スマホを開いた。涼花とのやり取りはそこまでだ。これ以上のメッセージはない。メッセージがないのに、僕は何度も何度も同じ画面を見返していた。

明後日。あと二日だ。

僕はまだ、眠れそうになかった。

──(第3話へつづく)

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