縁側で、私は祖母と並んで座った。大きな満月が、庭を青く照らしていた。
「おばあちゃんが、配達人だったなんて、知らなかった」
「言えなかったんだよ。約束だからね」祖母は静かに笑った。「でもね、灯里が継いでくれて、嬉しい。ずっと、後を任せられる人を探していたんだ」
「私にできるかな」
「できるよ。あんたは、人の気持ちに寄り添える子だから」
祖母は、私の手を握った。温かかった。死者の手が、こんなに温かいはずはないのに。
「配達人の仕事はね、ただ手紙を運ぶだけじゃないんだ。手紙を書けない人の、想いを聞くこと。伝えられなかった言葉を、代わりに届けてあげること。それが、一番大事なんだよ」
「想いを、聞く」
「そう。この町には、大切な人を亡くして、後悔を抱えたままの人がたくさんいる。伝えたかったのに、言えなかった。謝りたかったのに、間に合わなかった。そういう人たちの想いを、あんたが繋いであげるんだ」
私は頷いた。祖母への手紙を書きながら、私自身が、どれほど救われたか。あの後悔が、少しだけ軽くなったのを、私は知っている。
「でもね、灯里」祖母の顔が、少し曇った。「一つだけ、気をつけなさい。あわいの道には、悪い想いを抱えた者も紛れ込む。生者を、こちらに連れ去ろうとする者が。そういう時は、決して手を取ってはいけないよ」
「連れ去る……?」
「寂しさは、時に人を狂わせる。あんたを道連れにしようとする亡者もいる。見分け方は――」
そのとき、遠くで鐘が鳴った。祖母がはっとして、空を見上げた。月が、少しずつ欠けはじめている。
「もう、時間だ。満月が終わる前に、帰らないと」
「待って、おばあちゃん、見分け方って」
「大丈夫。あんたなら、わかる。心の目で見れば――」
祖母の姿が、月の光に溶けはじめた。
「また来るね、おばあちゃん」
「うん。待ってるよ、灯里。立派な配達人におなり」