第4話: 祖母の願い

縁側で、私は祖母と並んで座った。大きな満月が、庭を青く照らしていた。

「おばあちゃんが、配達人だったなんて、知らなかった」

「言えなかったんだよ。約束だからね」祖母は静かに笑った。「でもね、灯里が継いでくれて、嬉しい。ずっと、後を任せられる人を探していたんだ」

「私にできるかな」

「できるよ。あんたは、人の気持ちに寄り添える子だから」

祖母は、私の手を握った。温かかった。死者の手が、こんなに温かいはずはないのに。

「配達人の仕事はね、ただ手紙を運ぶだけじゃないんだ。手紙を書けない人の、想いを聞くこと。伝えられなかった言葉を、代わりに届けてあげること。それが、一番大事なんだよ」

「想いを、聞く」

「そう。この町には、大切な人を亡くして、後悔を抱えたままの人がたくさんいる。伝えたかったのに、言えなかった。謝りたかったのに、間に合わなかった。そういう人たちの想いを、あんたが繋いであげるんだ」

私は頷いた。祖母への手紙を書きながら、私自身が、どれほど救われたか。あの後悔が、少しだけ軽くなったのを、私は知っている。

「でもね、灯里」祖母の顔が、少し曇った。「一つだけ、気をつけなさい。あわいの道には、悪い想いを抱えた者も紛れ込む。生者を、こちらに連れ去ろうとする者が。そういう時は、決して手を取ってはいけないよ」

「連れ去る……?」

「寂しさは、時に人を狂わせる。あんたを道連れにしようとする亡者もいる。見分け方は――」

そのとき、遠くで鐘が鳴った。祖母がはっとして、空を見上げた。月が、少しずつ欠けはじめている。

「もう、時間だ。満月が終わる前に、帰らないと」

「待って、おばあちゃん、見分け方って」

「大丈夫。あんたなら、わかる。心の目で見れば――」

祖母の姿が、月の光に溶けはじめた。

「また来るね、おばあちゃん」

「うん。待ってるよ、灯里。立派な配達人におなり」

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