その夜、社務所の外で、ものすごい轟音がした。ドーン、と地面が揺れる。
何事かと外を見ると、境内に、筋骨隆々の大男が仁王立ちしていた。背中に太鼓を背負い、頭に角が二本。
「雷神だ」宇迦さんが、げんなりした顔で言った。「また来た」
雷神は、のっしのっしと社務所に入ってきた。天井に頭がつきそうだ。
「宇迦ァ! 相談だァ!」
声もでかい。私は耳を押さえた。
「はいはい、何ですか。てか、声が大きい」
「実はなァ! 俺、雲を運転するのが下手でなァ! この前、うっかり街の真ん中に雷を落としちまってなァ! 苦情が来たんだよォ!」
雷神の悩みは、まさかの運転技術。雲の操縦が下手で、雷を誤爆するらしい。
「それでなァ! 運転を、基礎から習いたいんだよォ! 自動車教習所みたいなのに、通えないかなァ!」
私は思わず口を挟んだ。
「雲の教習所って……あるんですか?」
「ないから、困ってんだよォ!」
宇迦さんが、腕を組んで考えた。
「うーん。雷神さんの問題は、要するに『距離感』ですよね。狙ったところに正確に落とせない」
「そうそう! それだ!」
「真希さん、何かいい練習法、ない?」
私は少し考えて、ひらめいた。
「あの、ダーツとか、どうですか。的に狙いを定めて当てる練習。感覚が掴めるかも」
雷神が、目を見開いた。
「ダーツ……! やってみる!」
それから雷神は、社務所の壁にダーツの的を貼り付け、深夜の特訓を始めた。ドスッ、ドスッと矢が刺さる。
数週間後、雷神は見事、狙った場所にだけ雷を落とせるようになった。街の苦情も、ぴたりと止んだらしい。
「真希のおかげだァ! 礼にダーツ、教えてやるぞォ!」
「い、いえ、結構です」
こうして私は、雷神とダーツ仲間になった。ちなみに、私のほうが圧倒的に上手い。神様、意外と不器用である。