あの夜以来、俺は五階を通るのが怖くなった。だが、見回りは全フロアを回らなければならない。それが決まりだった。
昼間、俺は前任者のノートを最初から読み直した。淡々とした記録の中に、規則性があることに気づいた。
見回りの間隔が二時間ちょうどのとき、記録は「異常なし」だった。だが、間隔が二時間を超えた日――トイレに行ったり、休憩したりして遅れた日――に限って、異変の記述が現れていた。
『二時間十五分。六階、ドア一つ増』
『二時間半。五階、子ども』
二時間。この数字に、意味がある。
二時間おきに見回ることで、何かを「抑えている」のではないか。時間が空くと、その何かが動き出す。ドアが増え、子どもが現れる。
つまり、俺の仕事は「巡回」ではなく「見張り」なのだ。何かが目を覚まさないように、定期的に確認して、封じ込める。
ぞっとした。だとしたら、遅れは許されない。一秒でも二時間を超えれば、それは動く。
その夜から、俺は時計に取り憑かれたように見回りをした。二時間ぴったり。一分の狂いもなく。
しばらくは、何も起きなかった。ドアは七つのまま。子どもも現れなかった。
うまくいっている。そう思った矢先、四階の学習塾のフロアで、明かりが灯っているのに気づいた。
こんな深夜に、誰かいるのか。
俺はガラス扉に近づいた。中では、小さな机がいくつも並んでいる。そのすべての席に、子どもたちが座っていた。
全員、顔がなかった。全員、俯いて、口を動かしていた。
「いち、に、さん、し……」
数える声が、ガラス越しに漏れ聞こえてくる。何十人もの子どもが、一斉に何かを数えていた。
ドアではない。今度は、もっと別の何かを。
俺は懐中電灯で、教室の黒板を照らした。そこには白い字で、大きくこう書かれていた。
『あと、なんにち?』