冬野さんから、初めて昼間に連絡が来た。
電話番号を交換したのは、雨の夜の帰り道だった。「何かあったら」と言い合っただけで、まさか使う日が来るとは思っていなかった。
『今度の日曜、昼に会えませんか』
メッセージを見て、私は指を止めた。昼。私がいちばん苦手な時間。
迷ったけれど、断れなかった。断りたくなかった。
日曜の昼、待ち合わせた駅前は、まぶしすぎて眩暈がした。人が多くて、みんな急いでいて、光が四方から刺してくる。私は思わず立ちすくんだ。
「律さん」
呼ばれて振り返ると、冬野さんがいた。夜と同じ、静かな顔で。
「大丈夫ですか。顔色が」
「……昼の街、ほんとにだめで。すみません」
「無理させました。座れる場所、行きましょう」
冬野さんは人混みを縫うように、私を裏通りの喫茶店へ連れていってくれた。古い、薄暗い店だった。入った瞬間、呼吸が楽になった。
「ここ、昼でも夜みたいでしょう」
「……はい。落ち着きます」
「律さんに、いつか昼の街も歩けるようになってほしくて。でも、いきなりは無理だから。まずは、こういう店から」
私は、胸がいっぱいになった。この人は、私を昼へ引きずり出そうとしているんじゃない。私が昼を怖がらなくなる場所を、一緒に探そうとしてくれている。
「どうして、そこまで」
聞くと、冬野さんは少し照れて、コーヒーに目を落とした。
「律さんに、夜だけの人でいてほしくないんです。俺の」
最後まで言わなかった。でも、わかった。
窓の外で、昼の光が揺れていた。怖くなかった、とは言わない。でも、この薄暗い店のなかでなら、その光を、少しだけ綺麗だと思えた。