第5話: 昼の街で

冬野さんから、初めて昼間に連絡が来た。

電話番号を交換したのは、雨の夜の帰り道だった。「何かあったら」と言い合っただけで、まさか使う日が来るとは思っていなかった。

『今度の日曜、昼に会えませんか』

メッセージを見て、私は指を止めた。昼。私がいちばん苦手な時間。

迷ったけれど、断れなかった。断りたくなかった。

日曜の昼、待ち合わせた駅前は、まぶしすぎて眩暈がした。人が多くて、みんな急いでいて、光が四方から刺してくる。私は思わず立ちすくんだ。

「律さん」

呼ばれて振り返ると、冬野さんがいた。夜と同じ、静かな顔で。

「大丈夫ですか。顔色が」
「……昼の街、ほんとにだめで。すみません」
「無理させました。座れる場所、行きましょう」

冬野さんは人混みを縫うように、私を裏通りの喫茶店へ連れていってくれた。古い、薄暗い店だった。入った瞬間、呼吸が楽になった。

「ここ、昼でも夜みたいでしょう」
「……はい。落ち着きます」
「律さんに、いつか昼の街も歩けるようになってほしくて。でも、いきなりは無理だから。まずは、こういう店から」

私は、胸がいっぱいになった。この人は、私を昼へ引きずり出そうとしているんじゃない。私が昼を怖がらなくなる場所を、一緒に探そうとしてくれている。

「どうして、そこまで」

聞くと、冬野さんは少し照れて、コーヒーに目を落とした。

「律さんに、夜だけの人でいてほしくないんです。俺の」

最後まで言わなかった。でも、わかった。

窓の外で、昼の光が揺れていた。怖くなかった、とは言わない。でも、この薄暗い店のなかでなら、その光を、少しだけ綺麗だと思えた。

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