銀の羅針盤 第8話「羅針盤が持てない理由」

第8話 羅針盤が持てない理由

老地図師の店を再び訪ねた。

セラの話をすると、老人は静かに聞いていた。窓から差し込む午後の光が、彼の白い髪を銀色に染めていた。店内の空気は相変わらず、古い紙と時間の匂いに満ちていた。

「地図師の守り手のことは知ってる」老人は言った。「セラの祖父も同じだった。店を守るために、外に出られなかった」

言葉の重さが胸に落ちた。セラの祖父も。つまり、この縛りはずっと前からあったのだ。代々、地図師の店は同じ呪いを抱えていたということか。

「ずっとそのままなんですか?」

僕の声は小さかった。セラがずっと、あの店の中だけで生きているのかもしれないという考えが、息苦しさを生み出していた。

「いや」老人は首を振った。「守り手の縛りは、羅針盤が全ての場所を巡り終えたとき、解ける」

その言葉に、僕の視線は老人に釘付けになった。解ける。セラを縛るものが、解ける。

「全ての場所?」

「その羅針盤が示すべき場所を、誰かが全て訪れたとき。その役目を終えた羅針盤は、守り手を縛る必要がなくなる」

老人は立ち上がると、店の奥へと歩んでいった。戻ってきた彼の手には、一冊の古い書が握られていた。その表紙には、羅針盤と同じ銀色の紋が刻まれていた。

「この書には、羅針盤が示す場所の一覧が書かれている。全て訪れるのは容易くはない。だが、もし君がそれをやり遂げるなら——」

老人の言葉は途中で途切れた。けれど、その先にある意味は明白だった。

「つまり……俺が全部の場所に行けば、セラは自由になる?」

老人は静かに頷いた。その動作の中に、確かな確信があった。

「最後の場所へ向かうとき、羅針盤は静止する。それが終わりの合図だ。その時、セラの祖父が受けたのと同じ縛りが、彼女から解放される」

店を出ると、僕は羅針盤を見た。懐に抱かれたそれは、いつもと変わらず温かく、いつもと変わらず重かった。

針はまだ動いていた。まだ場所がある。何十か所、あるいは何百か所。全てを巡るのにどれだけの時間が必要か、見当もつかなかった。

歩き続けようと思った。羅針盤に従って、どこまでも。セラのために、ではなく——セラと、どこかへ行けるようになるために。

街角で足を止めると、僕はもう一度、羅針盤を握った。その針が指す方向を見つめた。最初の場所から、多くの場所を訪れた。けれど、まだ始まったばかりなのだ。セラを縛る鎖を断つために、そしてセラ自身の意志で、どこへでも行けるようになるために。

僕は歩き出した。羅針盤の針が導く先へ。

──(第9話へつづく)

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