第4話 針が変わる
翌朝、羅針盤が昨日とは違う方向を指していた。
不安になってセラの店に駆け込んだ。「針が変わった。壊れてるんじゃないか?」
セラは棚を整理しながら振り返った。「壊れてないよ。場所が変わったんじゃなくて、あなたが変わったの」
「俺が?」
「昨日どこかに行ったでしょ。そこで何か変わったはず。それによって、次に行くべき場所も変わる」
老地図師の言葉を思い出した。あなたに必要なものが、そこにある。
「じゃあ、行き先は俺の状態によって変わるってこと?」
「そう。固定された目的地なんてないの。羅針盤はあなたの今に応答してる」
それは地図というより、鏡に近い気がした。
新しい方向を辿ると、今度は丘の上の小さな広場に出た。木製のベンチが一脚。風が吹いていた。
何もない場所だった。
でもそこに座ると、なぜか頭が静かになった。考えが整理されていくような、不思議な時間だった。
必要なものが「何もなさ」のときもある、と思った。
──(第5話へつづく)