第9話: 最終回の夜

『ミッドナイト・キョウコ』、最終回の夜。

午前二時。いつもの時間に、いつものジングルが流れた。でも、今夜で最後だと思うと、その音楽が、やけに沁みた。

「はい、始まりました。ミッドナイト・キョウコ、最終回です。……十年、あっという間だったわね」

キョウコの声は、いつもどおり、元気だった。でも、時々、言葉に、湿り気が混じった。

番組には、たくさんのメールが届いていた。全国の、いや、この地方の、眠れない人たちからの、感謝のメール。「あなたの声に、何度も救われた」「深夜二時が、唯一の楽しみだった」。

キョウコは、その一つ一つを、丁寧に読み上げた。毒舌は、なりを潜めていた。

そして、最後のメールコーナー。

「はい、それでは、最後のメール。ラジオネーム……眠らぬ狼くん」

僕のメールだった。僕は、この二ヶ月の、全部を込めて、書いた。

「キョウコさんへ。僕は、眠れない、冴えない、透明な人間でした。誰とも繋がっていないと思っていました。でも、あなたが、僕を、名前で呼んでくれた。毒舌でメッタ斬りにしながら、いつも、僕を外へ、押し出してくれた。おかげで、僕は、居場所を見つけました。あなたは、僕の夜を、明るくしてくれた、たった一人の人です。本当に、ありがとうございました。……最後に、一つだけ。今夜は、羊を数えなくても、眠れそうです。あなたの声を、ちゃんと、覚えたから」

読み終えたキョウコは、しばらく、黙っていた。

電波の向こうで、彼女が泣いているのが、わかった。

「……もう、狼くんったら」やっと、掠れた声が言った。「最後に、いちばん、いいメール、持ってくるんだから。ずるいわよ」

洟をすすって、キョウコは、笑った。

「これで、私の仕事は、完璧に終わり。あんたは、もう、大丈夫。……卒業、おめでとう、狼くん」

番組の、最後の曲が、流れ始めた。

僕は、ラジオの前で、声を殺して、泣いた。

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