十二月二十四日。クリスマスイブの、深夜。
田村は、いつものように、一人でレジに立っていた。世間が浮かれる夜も、深夜のコンビニは、変わらず静かだった。
午前零時を回った頃、自動ドアが開いた。
入ってきたのは、佐々木だった。だが、いつもと様子が違う。スーツを着て、髪をきちんと整えていた。
「佐々木さん、どうしたんですか、その格好」
「へへ」佐々木は、照れくさそうに笑った。「実は、俺、正社員になったんだ。今日、内定式でな」
「本当ですか! おめでとうございます!」
田村は、心から喜んだ。
「借金も、完済した。全部、あんたのおかげだよ、田村くん」佐々木は、深々と頭を下げた。「あの日、あんたが止めてくれなかったら、俺は、今ごろ」
「もう、その話は、いいですよ」田村は、照れて言った。
佐々木は、手に持っていた紙袋を、レジに置いた。
「これ、クリスマスプレゼント。あんたに」
「え?」
中身は、あたたかそうな、マフラーだった。
「深夜のレジ、寒いだろ。いつも、あんた、薄着だからさ」
田村は、マフラーを手に取った。柔らかくて、あたたかかった。
「……ありがとうございます」田村の声が、少し、震えた。「俺、こういうの、もらうの、久しぶりで」
「似合うぜ」佐々木は、笑った。
そのとき、自動ドアが開いた。
黒いパーカーの、若い男だった。手には、包丁。
「う、動くな! 金を――」
田村と佐々木は、同時に振り返った。そして、声を揃えて言った。
「「三千円と人生、釣り合うか?」」
若い男は、ぽかんとした。
「……え?」
「まあ、座れよ、若いの」佐々木が、慣れた様子で言った。「クリスマスだしな。話を聞いてやるよ」
田村は、ホットのおしるこを二本、温めた。一本を若い男に、もう一本を佐々木に。
「メリークリスマス」田村が、ぼそりと言った。
強盗未遂の若者と、元強盗と、無関心そうな店員。
三人は、深夜のコンビニで、あたたかいおしるこをすすった。
窓の外を、静かに、雪が降り始めていた。