第9話: クリスマスの夜勤

十二月二十四日。クリスマスイブの、深夜。

田村は、いつものように、一人でレジに立っていた。世間が浮かれる夜も、深夜のコンビニは、変わらず静かだった。

午前零時を回った頃、自動ドアが開いた。

入ってきたのは、佐々木だった。だが、いつもと様子が違う。スーツを着て、髪をきちんと整えていた。

「佐々木さん、どうしたんですか、その格好」

「へへ」佐々木は、照れくさそうに笑った。「実は、俺、正社員になったんだ。今日、内定式でな」

「本当ですか! おめでとうございます!」

田村は、心から喜んだ。

「借金も、完済した。全部、あんたのおかげだよ、田村くん」佐々木は、深々と頭を下げた。「あの日、あんたが止めてくれなかったら、俺は、今ごろ」

「もう、その話は、いいですよ」田村は、照れて言った。

佐々木は、手に持っていた紙袋を、レジに置いた。

「これ、クリスマスプレゼント。あんたに」

「え?」

中身は、あたたかそうな、マフラーだった。

「深夜のレジ、寒いだろ。いつも、あんた、薄着だからさ」

田村は、マフラーを手に取った。柔らかくて、あたたかかった。

「……ありがとうございます」田村の声が、少し、震えた。「俺、こういうの、もらうの、久しぶりで」

「似合うぜ」佐々木は、笑った。

そのとき、自動ドアが開いた。

黒いパーカーの、若い男だった。手には、包丁。

「う、動くな! 金を――」

田村と佐々木は、同時に振り返った。そして、声を揃えて言った。

「「三千円と人生、釣り合うか?」」

若い男は、ぽかんとした。

「……え?」

「まあ、座れよ、若いの」佐々木が、慣れた様子で言った。「クリスマスだしな。話を聞いてやるよ」

田村は、ホットのおしるこを二本、温めた。一本を若い男に、もう一本を佐々木に。

「メリークリスマス」田村が、ぼそりと言った。

強盗未遂の若者と、元強盗と、無関心そうな店員。

三人は、深夜のコンビニで、あたたかいおしるこをすすった。

窓の外を、静かに、雪が降り始めていた。

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