ひと月が過ぎた頃、営業所に一通の郵便が届いた。
宛名は「深夜担当 逢坂律さま」。差出人の名前はなかった。事務員が、変わったお客さんもいるものねと笑って渡してくれた。
開けると、一冊の本が出てきた。
薄い、手のひらほどの小さな絵本だった。表紙には、灯台と、そのそばに立つ人の絵。妹さんの、あの色鉛筆の絵だった。
タイトルは、『よるのうみを、いっしょに』。
私は震える手で、ページをめくった。妹さんの絵に、冬野さんの言葉が寄り添っていた。やわらかくて、静かで、少しだけ切ない言葉たち。誰かひとりに届けばいいと言った、あの人の言葉。
最後のページに、二人の人が描かれていた。灯台のそばに、手をつないで立つ、二人。棒人間ではなく、ちゃんとした、二人だった。
その下に、手書きの文字があった。
『律さんへ。約束を守れなくて、ごめんなさい。本を作るために、しばらく街を離れます。妹の田舎の家で、こもって仕上げました。連絡もできず、勝手なことをしました。
でも、この本の最後の二人は、俺と、律さんのつもりです。
完成したら、いちばんに読ませると約束したから、これを送ります。
もし、まだ怒っていなければ。次の火曜、みなと橋の角にいます。』
私は、本を胸に抱いた。事務所の蛍光灯の下で、涙が止まらなかった。昼の光の下で泣いたのは、久しぶりだった。
怒っていた。心配した。寂しかった。でも、その全部が、最後のページの二人の絵に溶けて消えた。
次の火曜。
私は、あと何回、夜を数えればいいのだろう。その待ち時間さえ、今はいとおしかった。
窓の外は、いつのまにか夕暮れだった。夜が、来ようとしていた。