公開収録から、一週間後のことだった。
その夜の放送で、キョウコが、いつになく神妙な声で切り出した。
「リスナーのみんなに、お知らせがあります」
嫌な予感がした。
「この『ミッドナイト・キョウコ』、来月いっぱいで、終わることになりました」
ラジオの前で、僕は硬直した。
「局の編成の都合でね。深夜のこの時間帯、なくなっちゃうの。十年やってきたけど、まあ、こういうこともあるわね」
キョウコの声は、努めて明るかった。でも、その明るさが、逆に、寂しさを際立たせていた。
「あと一ヶ月、悔いのないように、やりましょう。……特に、狼くん。あんた、最後まで、いいネタ持ってきなさいよ」
僕は、居ても立ってもいられず、メールを送った。「終わらないでください。この番組が、僕の、唯一の……」
打ちかけて、消した。うまく言葉にできなかった。
代わりに、こう送った。「キョウコさん、番組が終わったら、僕たちの居場所は、どこになるんですか」
しばらくして、キョウコが読み上げた。
「狼くん。あんた、まだ、そんなこと言ってるの」
呆れたような、それでいて、優しい声だった。
「居場所はね、探すんじゃなくて、作るのよ。私はこの番組を、十年かけて作った。あんたも、あんたの居場所を、これから作りなさい。この番組は、そのための、練習だったの」
練習。二ヶ月間の、毎晩のやり取りが。公開収録が。全部、僕が、自分の足で立つための。
「あのね、狼くん」キョウコは続けた。「私、あんたに、最後の宿題を出すわ。番組が終わるまでに、あんた、外の世界に、一つだけ、居場所を作ってきなさい。仕事でも、友達でも、なんでもいい。それができたら、私は、安心して、この番組を終われるの」
最後の宿題。僕は、こぶしを握った。
この人は、最後まで、僕を、外へ、押し出そうとしていた。