田口を助けるには、あの十三階へ行くしかない。俺はそう思い詰めていた。連れ戻さなければ、あいつは死ぬ。じわじわと、あっち側へ引きずられて。
もちろん、正気の沙汰ではない。行けば、俺も帰ってこられないかもしれない。管理人にその考えを話すと、彼は血相を変えて止めた。
「やめとけ。行った者は、みんな消えた。お前まで、あっちに取り込まれるだけだ」
「でも、田口を放っておけない。俺が止めなかったら、あいつはあの夜、ボタンを押してた。……逆に言えば、俺が中途半端に止めたせいで、あいつは今、生きたまま引きずられてる」
管理人は、しばらく黙っていた。それから、机の引き出しを開け、古びた鍵束を取り出した。
「……昔、工事で死んだ三人のうち、一人は俺の弟だった」
俺は息をのんだ。
「だから俺は、このビルの管理人になった。弟を、あの階から出してやりたくて。ずっと機会を探してた。だが、俺一人じゃ、どうにもならなかった」
管理人は、鍵束の中から一本の錆びた鍵を選んだ。
「非常用の階段の、いちばん上。封鎖された扉がある。その先が、十三階だ。エレベーターで行くと、向こうの世界に取り込まれる。だが、階段からなら——生きた人間として、足を踏み入れられるかもしれん」
「かもしれん、ですか」
「保証はない。だが、エレベーターよりはましだ」
俺は鍵を受け取った。ひんやりと重い、錆びた鍵。
「一つだけ、約束しろ」管理人は言った。「向こうで、決して振り返るな。何を呼ばれても、誰の声がしても。連れて帰りたい者の手だけを、握って、前だけ見て帰ってこい」
俺はうなずいた。その夜、俺は田口を連れ戻すために、封鎖された階段を上ることになった。