第2話: 神様の落とし物

喋る白狐を前に、私はなんとか正気を保っていた。二千円、二千円、と心の中で唱えながら。

「え、えっと、ご用件は」

「あのね~、落とし物したの~」白狐は、しょんぼりと尻尾を垂らした。「僕、稲荷の使いなんだけど、油揚げを落としちゃって」

「油揚げ……ですか」

「そう! すっごく大事な油揚げ! お供え物なの! あれがないと、僕、稲荷様に叱られちゃう~」

泣きそうな狐。神様の使いも、意外と苦労しているらしい。

そこへ、奥から所長の宇迦さんが出てきた。

「ああ、コン太じゃないか。また落とし物?」

「宇迦様~! 助けてよ~!」

「真希さん、彼はコン太。この辺りの稲荷神社の眷属だよ。落とし物の常習犯でね」

宇迦さんは慣れた様子で、カウンターの下から一枚の油揚げを取り出した。

「はい、これでしょ。さっき境内に落ちてた」

「あ~! これこれ! ありがとう宇迦様~!」

コン太は油揚げを大事そうに抱えて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

「真希さん」宇迦さんが私に言った。「これがこの相談所の仕事。八百万の神様や、その眷属たちの、ちょっとした困りごとを解決するんだ」

「八百万の神様の……相談窓口」

「そう。神様といっても、完璧じゃないからね。物を落とすし、道に迷うし、喧嘩もする。人間と大して変わらないよ」

コン太が、油揚げをかじりながら言った。

「新人さん、よろしくね~。ここのお姉さん、みんな優しかったよ~。まあ、みんな三日で辞めちゃったけど~」

「三日?」

宇迦さんが、慌てて咳払いをした。

「あー、コン太、余計なこと言わない。真希さんは、大丈夫だよね?」

二千円。私はもう一度、心の中で唱えた。

「……頑張ります」

こうして、私の神様相談所での、波乱の日々が始まったのだった。

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