「配達人?」
私が聞き返すと、ポストの声はゆっくりと語りはじめた。
「私はただのポスト。手紙を預かることはできても、届けることはできません。届けるには、生きた人間の足がいるのです」
「亡くなった人に、どうやって手紙を届けるんですか」
「満月の夜、私が『あわいの道』を開きます。生者と死者の、狭間の道。その道を歩けるのは、選ばれた配達人だけ。あなたには、その素質があります」
私は困惑した。素質と言われても、心当たりがない。
「あなたのお祖母様は、長年この町の配達人でした」
息を呑んだ。祖母が。あの穏やかで、いつも私を可愛がってくれた祖母が、そんな不思議な役目を。
「お祖母様が亡くなり、配達人の席が空きました。そして今夜、あなたが手紙を書いた。血筋なのでしょう。あなたなら、道を歩けます」
「でも、私、そんな……」
「無理にとは言いません」ポストの声は優しかった。「ですが、この町には、まだ届けられていない手紙がたくさんあります。伝えられなかった想いを抱えたまま、待っている人たちが」
私は、投函口を見つめた。さっき入れた、祖母への手紙。あれは、もう届いたのだろうか。
「私の手紙、おばあちゃんに届きますか」
「あなたが配達人になれば。自分の手で、届けることができます」
心が揺れた。祖母に、直接会える。伝えられなかった言葉を、渡せる。
「一つだけ、約束してください」ポストが言った。「あわいの道で見たこと、聞いたことを、生者の世界で口外しないこと。そして、決して道の途中で立ち止まらないこと」
「立ち止まると、どうなるんですか」
「――帰れなくなります」
月明かりの下、私は静かに頷いた。祖母に会いたい。その想いが、恐怖を上回っていた。
「わかりました。私、配達人になります」