あれから半年が過ぎた。季節はめぐって、運河の上を冷たい風が渡る冬になった。
私と水島さんは、恋人になった。休みの日にはいっしょに映画を観たり、遠くの海まで足をのばしたり、ごく普通の恋人らしいことをするようになった。彼は相変わらず照れ屋で、私はときどきその頬をつついて笑わせる。
それでも、私たちは同棲しなかった。彼は今も対岸の部屋に住み、私は七階に住んでいる。まわりからは「それだけ仲がいいなら、いっしょに暮らせばいいのに」と言われる。でも、私たちにはこの距離が必要だった。
夜勤明けの午前二時。私はベランダに出て、運河の向こうを見る。三階の端の部屋に、今夜も灯りがともっている。
私は部屋の電気を、ゆっくり三回、点滅させる。
——おやすみなさい。
向こうの灯りが、ゆっくり三回、応える。
——おやすみなさい。今日もおつかれさま。
言葉にしなくても、光がすべてを語ってくれる。近くにいても、この合図は特別だった。あの、名前も顔も知らずに、ただ「起きている者どうし」として通じ合った夜の記憶が、私たちを今も結んでいる。
「疲れてない?」あとで届いたメッセージに、私は「大丈夫。あなたの灯りがあるから」と返す。
世界が眠っている時間。それでも、川の向こうには、私と同じように起きている人がいる。その灯りがある限り、私はもう、夜を怖いとは思わない。
二つの光が、暗い運河の水面で、静かに寄り添っていた。
——おやすみ。また、明日の夜に。