「時給二千円、深夜のみ、未経験歓迎」
そのバイト募集を見つけたとき、私、真希は迷わず飛びついた。大学の学費と生活費で、常に金欠だったのだ。二千円あれば、天国じゃないか。
面接場所は、商店街の外れにある古い神社の、社務所だった。「よろず相談所」と書かれた、色あせた看板がかかっている。
面接官は、白い着物を着た、やたら整った顔の男性だった。年齢不詳。二十代にも、四十代にも見える。
「君が、真希さんだね。よろしく。僕はここの所長、宇迦(うか)です」
「あの、業務内容って、具体的には」
「受付だよ。来客の悩みを聞いて、担当者に取り次ぐ。簡単でしょ」
簡単そうだった。時給二千円で受付だけなら、こんな美味しい話はない。
「じゃあ、早速今夜からお願い。あ、一つだけ注意事項」
宇迦さんは、にこりと笑った。
「ここの相談者はね、ちょっと特殊なんだ。驚かないでね」
特殊。水商売系だろうか。まあ、二千円のためなら。
深夜十一時。私は受付カウンターに座った。しんと静まり返った社務所。時計の音だけが響く。
午前零時ちょうど、玄関の引き戸が、がらりと開いた。
入ってきたのは――狐だった。二本足で立ち、着物を着た、大きな白狐。ふさふさの尻尾が三本、揺れている。
私は固まった。着ぐるみ? いや、鼻先がひくひく動いている。目が、こちらをじっと見ている。生きている。
「あの~、相談したいんですけど~」
狐が、喋った。
私は、悲鳴を上げる代わりに、こう思った。
(時給二千円って、そういうことか……)