祖母が亡くなって、三ヶ月が経った。
私、灯里は祖母の古い家を片づけるために、久しぶりにこの町へ戻ってきた。両親はもう遠方に住んでいて、家のことは私に任された。
満月の夜だった。片づけに疲れて外に出ると、家の前の細い路地に、見慣れないものがあった。
古い、丸い形の郵便ポスト。赤ではなく、深い藍色をしている。月の光を浴びて、うっすらと光っていた。昨日まで、こんなものはなかったはずだ。
近づくと、ポストの投函口の上に、小さな金色の文字が刻まれていた。
『届かぬ想いを、あの人へ』
不思議に思って、私はポストの周りを一周した。裏側には、こう書かれていた。
『満月の夜のみ開局。宛先は、この世にあらぬ人に限る』
ぞくりとした。この世にあらぬ人。つまり、亡くなった人へ、手紙を届けるということか。
馬鹿げている。そう思いながらも、私はふと、祖母のことを考えた。生前、伝えられなかった「ありがとう」。忙しさを言い訳に、会いに来られなかった後悔。
気づけば、私は家に戻り、便箋にペンを走らせていた。おばあちゃんへ、と。短い、けれど心を込めた手紙を書いた。
ポストの前に戻り、投函口に手紙を入れた。かたん、と音がした。
その瞬間、ポストが淡く光り、内側から声がした。
「確かに、お預かりしました」
私は飛び上がった。ポストが、喋った。
「配達人が、必要なのです」と、声は続けた。「あなた、亡き人へ手紙を届ける仕事に、興味はありませんか」
月が、雲間から顔を出した。藍色のポストが、私を待つように、静かに佇んでいた。