次の水曜日、彼はいつもより早い時間に来た。まだ日が高く、店先の花たちが明るく光っている。
「今日は、どれがいいと思いますか」
彼が突然そう訊いてきたので、私は少し戸惑った。今まで自分で選んでいたのに。
「どなたに贈るんですか。それによって、おすすめが変わります」
彼は一瞬言葉を探すように黙り、それから「大切な人に」とだけ答えた。曖昧な答えだった。でも、その言い方に嘘はないように思えた。
私は店の中を見回し、淡いオレンジのバラを一本抜いた。
「これはどうですか。派手すぎず、でも元気が出る色です」
彼はそれを手のひらに乗せるように受け取り、しばらく見つめた。
「バラって、色で意味が違うんですよね」
「よくご存じですね。オレンジは『絆』とか『信頼』です」
彼の目が、ほんの少しやわらいだ気がした。
「絆、か。いいですね。これにします」
レジで会計をしながら、私はどうしても気になってしまう。大切な人。それは誰なのだろう。訊きたいのに、訊いてはいけない気もする。
「あの」と、彼が口を開いた。「毎週すみません。変な客だと思ってますよね」
「いえ」私は慌てて首を振った。「水曜日が、少し楽しみなんです」
言ってしまってから、頬が熱くなった。彼は驚いたように目を丸くして、それから照れたように笑った。
「僕も、です」
短い言葉だった。でもその四文字が、閉店後もずっと私の胸に残っていた。バラの棘に指を引っかけたみたいに、ちくりと、でも確かに。