季節が巡り、また満月の夜が来た。
私はもう、配達人の仕事に迷いはなかった。この町で、伝えられなかった想いを抱えた人がいる限り、私は手紙を届け続ける。祖母がそうしてきたように。
その夜、私は自分のために、一通の手紙を書いた。宛先は、祖母。
『おばあちゃんへ。私、配達人の仕事、続けてるよ。大変なこともあるけど、誰かの想いを繋げるたびに、この仕事を継いでよかったって思う。おばあちゃんが、どんな気持ちでこの仕事をしてきたのか、少しわかった気がする。ありがとう、おばあちゃん。私に、大切なものを遺してくれて』
手紙を胸に、あわいの道を歩いた。祖母の家の縁側に、いつものように、祖母が座っていた。
「おばあちゃん」
「あら、灯里。立派になったねえ」
祖母は、手紙を読んで、目を細めた。
「あんたなら、大丈夫。もう、私が見守らなくても、ちゃんとやっていける」
「これからも、時々、会いに来ていい?」
祖母は、少し寂しそうに、でも優しく微笑んだ。
「灯里。実はね、私も、そろそろ行かなきゃならないんだ。もっと、明るいところへ。あんたが立派な配達人になるのを、見届けたかった。それが、私の心残りだったんだよ」
祖母の体が、うっすらと光りはじめた。そら君の時と、同じだった。
「おばあちゃん、行っちゃうの」
「うん。でもね、寂しくないよ。あんたが、この町の灯りを繋いでくれるから。想いは、消えない。ちゃんと、次へ渡っていく。それが、この仕事の意味なんだよ」
涙が溢れた。でも、笑顔で見送ろうと決めた。祖母が、安心して旅立てるように。
「行ってらっしゃい、おばあちゃん。ありがとう」
「ああ、行ってきます。灯里、幸せにおなり」
祖母の姿が、光の粒になって、夜空へ昇っていった。満月に向かって、まっすぐに。
私は、藍色のポストの前に戻った。次の満月も、その次も、私はここに立つだろう。誰かの想いを、あの人へ届けるために。
月の光が、そっと、私を照らしていた。