第2話: 増えるドア

二日目の勤務。俺は前任の警備員が残した記録ノートを見つけた。

分厚いノートには、几帳面な字で何年分もの見回り記録が綴られていた。ほとんどが「異常なし」の三文字。だが、最後の数ページに、妙な記述が混じっていた。

『六階、ドアが一つ増えている』
『七階、廊下の奥に見覚えのない扉。開かず』
『五階、足音。追うが誰もいない』

最後のページには、震えた字でこう書かれていた。

『数えるな。数えると、増える』

その下で記録は途切れていた。前任者は突然辞めたと聞いている。理由は聞いていない。

馬鹿げている、と思った。ドアが増えるはずがない。俺は笑い飛ばそうとしたが、うまく笑えなかった。

午後十一時、見回りに出る。六階に着いたとき、俺はつい、廊下のドアを数えてしまった。左に四つ、右に三つ。合計七つ。

記録用紙の隅に「6F ドア7」とメモした。数えるなと書いてあったのに、確かめずにはいられなかった。

午前一時、二度目の見回り。六階の廊下に立ち、俺は息を呑んだ。

左に四つ、右に四つ。合計八つ。

数え間違いだ。そう思いたかった。だが、右の一番奥に、さっきはなかったはずのドアがあった。他のドアより少しだけ新しく、取っ手が妙に光っている。

俺はそのドアに近づいた。開けるべきか。手が伸びる。

そのとき、ドアの向こうから、コツ、コツ、と足音がした。誰かが、内側から近づいてくる。

俺は反射的に手を引っ込め、階段を駆け下りた。警備室に戻り、荒い息を整える。

ノートの警告が、頭の中でこだました。数えるな。数えると、増える。

もう遅かった。俺は、数えてしまった。

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