第6話 子どもの頃の夢
「子どもの頃の夢」というホームに、一度乗りたかった。
夢の駅に来てから、リョウはいくつもの異なるホームを見てきた。明らかに大人の夢、恋愛に関する夢、仕事の夢、そして悪夢。けれど「子どもの頃の夢」というプレートを見たときだけ、自分の胸がざわりとした。もう二度と見ることのない、失われた時間の夢。大人になった今、それを体験することができたら、どんな感覚なのだろう。
ツキに言うと「特別なホームだよ、あれは」と言われた。
ツキはプラットフォームの端に立って、腕を組みながらそう言った。いつもの無表情な顔だったが、その声には警告のようなものが含まれていた。
「どう特別なの?」
リョウが聞き返すと、ツキはしばらく黙っていた。遠くで電車の汽笛が鳴った。夢の駅のそれとは違う、どこか懐かしい音。
「夢の主が子どもの頃の自分のものだから、感情が濃い。楽しい夢なら楽しすぎて出られなくなることがある。悲しい夢なら——かなりつらい」
その言葉は、予告というより忠告に聞こえた。リョウはツキの横顔を見た。彼はいつもこの駅のすべてを知っているようだった。子どもの頃の夢についても、きっと何か経験があるのだろう。だが、それについて聞くのはやめた。
「それでも乗っていい?」
「夢の主が子どもの頃の自分のものだから、感情が濃い。楽しい夢なら楽しすぎて出られなくなることがある。悲しい夢なら——かなりつらい」
ツキはリョウを見た。その目は、単なる注意ではなく、自分がどこまで本気かを試すような光を持っていた。
「なんで乗りたいの?」
「子どもの頃の夢って、もう自分では見られないから。他の人のを見てみたかった」
リョウはそう答えた。それは本当のことだった。大人になると、夢の質は変わる。責任感が生まれ、現実の悩みが夢に侵食する。純粋な喜びや、理由のない楽しさ、あるいは子どもにしかわからない恐怖——そういった感情の濃度が薄れていく。だからこそ、失われたその時間の夢を、他人のものであっても体験したいという欲求があった。
少しの間の後、ツキが「一緒に乗る」と言った。
「一人だと危ないから」
それ以上の説明はなかった。ツキはプラットフォームをまっすぐ歩き、停車している列車のドアの前に立った。列車は一見してふつうに見えた。だが、何となく、その色合いが柔らかいように感じられた。白と薄い青の車体は、どこか幼い印象を与えていた。
乗り込むと、座席も小ぶりで、窓の高さも低いようだった。子どもの視点に合わせて作られているのかもしれない。リョウとツキが座ると、列車は何の予告もなく走り出した。
窓の外が、少しずつ明るくなっていった。
灰色のプラットフォームは消え、やがて景色が現れた。それは——リョウが知っていた景色だった。ではなく、見たことはあるはずなのに、思い出せない景色だった。公園の砂場。すべり台。その奥にある古い校舎。季節は初夏らしく、空は青く、雲は白かった。
子どもの頃のにおいがした。
草と土と、それから——何か甘い匂い。たぶん、駄菓子屋の香りなのだろう。列車が走るたびに、においが強くなったり弱くなったりした。リョウは気付かないうちに、目を閉じていた。
「怖い?」
ツキが横から聞いた。
「いや。懐かしい」
そう答えたとき、列車はさらにスピードを上げた。