ある夜、めったに深夜に来ない店長が、突然、店に現れた。
「田村くん、防犯カメラの映像、確認したいんだけど」
田村は、内心、ぎくりとした。防犯カメラには、あの強盗未遂の様子が、しっかり映っているはずだった。
「な、何かありました?」
「いや、最近、変な客が多いって、本部から連絡があってね」店長は、モニターを操作した。「あれ? この、包丁持った男……これ、強盗じゃないの?」
映っていたのは、初日の佐々木だった。
「あー、それは、その」田村は、必死で言い訳を探した。「コスプレ、です」
「コスプレ?」
「はい。最近、流行ってるんですよ。強盗ごっこ、っていう。すぐ帰りましたし」
「そんな流行、あるか?」
そのとき、間の悪いことに、自動ドアが開いた。
入ってきたのは、佐々木だった。
「よお、田村くん! 今日、給料出たから、肉まん、おごるぜ!」
店長が、佐々木を見た。そして、モニターの映像と、見比べた。
「……君、この、強盗の」
佐々木が、固まった。田村も、固まった。
店内に、気まずい沈黙が流れた。
「あ、あの、店長」田村が、慌てて言った。「この人は、その、常連さんで」
「田村くん」店長は、真剣な顔で言った。「強盗を、常連にしちゃダメだろう」
「……すみません」
佐々木は、深々と頭を下げた。
「あの、店長さん。俺、あの日、本当に強盗しようとしました。でも、田村くんに止めてもらって、今は、真面目に働いてます。田村くんは、俺の恩人なんです。どうか、彼を怒らないでください」
店長は、しばらく、佐々木の顔を見ていた。それから、大きなため息をついた。
「……まあ、通報しなかったのは、問題だけどな」店長は、頭をかいた。「でも、人を、犯罪者にしないで済んだんだ。それは、悪いことじゃない」
「店長……!」
「ただし、田村くん」店長は、びしっと指を差した。「今後、強盗が来たら、ちゃんと通報しろよ。命に関わったら、大変だぞ」
「はい」田村は、うなずいた。「善処します」
「善処、って言った?」
店長は、なんだか釈然としない顔で、帰っていった。
残された田村と佐々木は、顔を見合わせて、こっそり笑った。