ゴンドラが頂上を越え、下りに入ると、窓の景色は、ゆっくりと元の遊園地に戻っていった。
莉子は、涙を拭いながら、ずっと考えていた。
選ばなかった人生は、あたたかかった。でも、その人生の中の莉子も、また別の道を思い描いていた。どちらを選んでも、人は、選ばなかった方を思うのかもしれない。
ゴンドラが乗り場に戻ってくると、青年が扉を開けて待っていた。
「いかがでしたか」
「幸せそうでした」莉子は言った。「あっちのわたし。でも……あっちのわたしも、こっちを見てたんです。選ばなかった道を」
青年は、静かにうなずいた。
「みなさん、そうおっしゃいます」
「どういうことですか」
「どんな道を選んでも、人は、選ばなかった道を美しく思うものです」青年は言った。「あなたが見た『もう一つの人生』は、幸せでした。でも、そこにいる莉子さんは、あなたの人生を、まぶしく思っていた。――つまり、答えは、最初から一つなんです」
「答え?」
「どちらの人生にも、幸せと、後悔がある。だから、選ばなかった道を悔やむ必要はない。あなたが今いる場所も、ちゃんと、誰かにとっての『まぶしい人生』なんです」
莉子は、胸の奥が、じんと熱くなった。
ずっと、自分の人生は、失敗だと思っていた。道を間違えたと思っていた。でも――あちらの莉子は、こちらの莉子を、うらやんでいた。
「わたしの人生も、悪くなかった、ってことですか」
「悪くない、どころか」青年は微笑んだ。「あなたが選んだから、今のあなたがある。それは、誰にも真似できない、あなただけの人生です」
莉子は、深く息を吸った。夜の空気が、澄んでいた。
「ありがとうございます」
乗り場を出ようとして、莉子は振り返った。
「あなたは、乗らないんですか。選ばなかった人生を、見なくていいんですか」
青年の顔が、ほんの一瞬、こわばった。
「僕は……乗れないんです」
「どうして?」
青年は、答えなかった。ただ、寂しそうに、回り続ける観覧車を見上げていた。