新しい強盗は、佐々木より、さらに気弱そうだった。
「か、金を出せ! 全部だ!」
声が、震えている。包丁を持つ手も、がくがくだ。
田村が対応しようとすると、佐々木が、ずいと前に出た。
「おい、若いの。やめとけ」
「な、なんだよ、あんた」
「俺も、この前まで、あんたと同じだった」佐々木は、妙に貫禄のある口調で言った。「コンビニ強盗なんて、割に合わねえぞ。三千円と、人生、釣り合うか?」
「さ、三千円……?」
「深夜のレジには、それくらいしか入ってねえんだよ。な、田村くん」
「はい、だいたい三千円です」田村がうなずいた。
若い男は、動揺した。
「じゃ、じゃあ、なんで強盗なんかして……あんたら、グルか?」
「グルじゃねえよ」佐々木は、腕を組んだ。「で、あんた、いくら要るんだ」
「……五万円。バンドの機材が壊れて、ライブに間に合わなくて」
「バンド?」佐々木は、目を丸くした。「あんた、ミュージシャンか」
「まだ、売れてないけど……来週、大事なライブがあって、それに賭けてるんだ。でも、機材が」
田村は、レジの下から、一枚のチラシを取り出した。
「そういえば、この近くのライブハウス、機材レンタルやってますよ。一日、三千円くらいで」
「え?」
「強盗するより、安上がりです」
若い男は、チラシを受け取って、目を輝かせた。
「……これだ! これがあれば!」
「よかったな、若いの」佐々木が、しみじみと言った。「俺みたいに、道を踏み外すなよ」
「あんたも強盗じゃないか」
「元、な。今は、日雇い労働者だ」
若い男は、包丁をしまい、何度も礼を言って帰っていった。
自動ドアが閉まると、佐々木は、ふう、と息をついた。
「なんか、俺、いいことした気分だな」
「元強盗が言うと、説得力ありますね」田村が、ぼそりと言った。
「うるさいよ」
深夜のコンビニは、いつのまにか、道を踏み外しかけた人間の、駆け込み寺のようになっていた。