第4話: 深夜のライバル

新しい強盗は、佐々木より、さらに気弱そうだった。

「か、金を出せ! 全部だ!」

声が、震えている。包丁を持つ手も、がくがくだ。

田村が対応しようとすると、佐々木が、ずいと前に出た。

「おい、若いの。やめとけ」

「な、なんだよ、あんた」

「俺も、この前まで、あんたと同じだった」佐々木は、妙に貫禄のある口調で言った。「コンビニ強盗なんて、割に合わねえぞ。三千円と、人生、釣り合うか?」

「さ、三千円……?」

「深夜のレジには、それくらいしか入ってねえんだよ。な、田村くん」

「はい、だいたい三千円です」田村がうなずいた。

若い男は、動揺した。

「じゃ、じゃあ、なんで強盗なんかして……あんたら、グルか?」

「グルじゃねえよ」佐々木は、腕を組んだ。「で、あんた、いくら要るんだ」

「……五万円。バンドの機材が壊れて、ライブに間に合わなくて」

「バンド?」佐々木は、目を丸くした。「あんた、ミュージシャンか」

「まだ、売れてないけど……来週、大事なライブがあって、それに賭けてるんだ。でも、機材が」

田村は、レジの下から、一枚のチラシを取り出した。

「そういえば、この近くのライブハウス、機材レンタルやってますよ。一日、三千円くらいで」

「え?」

「強盗するより、安上がりです」

若い男は、チラシを受け取って、目を輝かせた。

「……これだ! これがあれば!」

「よかったな、若いの」佐々木が、しみじみと言った。「俺みたいに、道を踏み外すなよ」

「あんたも強盗じゃないか」

「元、な。今は、日雇い労働者だ」

若い男は、包丁をしまい、何度も礼を言って帰っていった。

自動ドアが閉まると、佐々木は、ふう、と息をついた。

「なんか、俺、いいことした気分だな」

「元強盗が言うと、説得力ありますね」田村が、ぼそりと言った。

「うるさいよ」

深夜のコンビニは、いつのまにか、道を踏み外しかけた人間の、駆け込み寺のようになっていた。

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