第8話: フィルムの中身

押し入れのカメラを取り出すと、それは、ほんのりと温かかった。

布を解き、背面の蓋を開ける。中には――入れた覚えのないフィルムが、セットされていた。すでに何コマも巻き取られている。

私が入れたのではない。では、誰が。

震える手でフィルムを引き出し、光に晒した。感光させて、写った像を飛ばすためだ。祖母の言う「消す」方法。ぐるぐると引き出しながら、部屋の明かりに晒していく。

そのとき、フィルムの一コマが、明かりに透けて見えた。

感光する前の一瞬、そこに写っていたのは――今、この押し入れの前にしゃがみ込んでいる、私自身の姿だった。うしろから撮られている。まるで、和室の女が、私の背後に立って撮ったかのように。

背後に。

私は、振り返れなかった。振り返れば、そこに彼女がいる気がした。うなじのあたりに、氷のような視線を感じた。畳の匂いと、かびた着物の匂いが、ふっと鼻をかすめた。

フィルムを、力いっぱい引き出し続けた。全部を光に晒せば、消える。この一本を消しきれば。

最後のコマまで引き出したとき、部屋の温度が、すっと下がった。背後の気配が、消えた。畳の匂いも、消えた。

私はへたり込んだまま、長い間、動けなかった。

やがて、そろそろと振り返った。誰もいなかった。押し入れの中も、部屋の中も、いつもどおりだった。

感光しきったフィルムは、茶色く濁って、何も写っていなかった。三十七枚目も、和室の女も、私自身も、すべて光に溶けて消えていた。

消えた。ようやく、消えた。

そう思って、私は最後に残っていた、あの一枚のプリント――二本目の三十七枚目を、確かめようとテーブルに目をやった。

写真は、真っ白になっていた。女の姿も、和室も、窓も、跡形もなく。ただの白い紙になっていた。

助かったのだ。そう、思った。

でも、白い紙の中央に、ぽつんと、小さな文字だけが残っていた。
祖母の日記と同じ、あの几帳面な字で。
『三十八枚目』と。

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