その週末、大きな流星群が来るのだと、彼が教えてくれた。
「ピークは夜中の二時ごろです。よかったら、一緒に見ませんか」
初めて、はっきりと「一緒に」と言われた。私はうなずいた。声が少し上ずったのが、自分でもわかった。
当日、屋上には毛布とあたたかい飲み物を用意した。彼はいつもの望遠鏡ではなく、寝転がって空全体を見られるようにと、レジャーシートを広げた。
「流れ星は、望遠鏡じゃ見えないんです。狭すぎて。空全体を、目で見るのが一番いい」
二人で並んで寝転がると、視界いっぱいに夜空が広がった。街のあかりで空は少し明るかったけれど、それでも時々、白い線がすっと横切っていく。
「あっ」
「見えましたか」
「うん、今の、すごく長かった」
願い事を、と彼が言った。三回唱えると叶うのだと。けれど流れ星はあまりに速くて、一回言い終える前に消えてしまう。
「無理ですよ、こんなの」と私が笑うと、彼も笑った。
「昔からそうなんです。だから僕は、流れる前から願い事を決めておくことにしてます」
「ずるいですね」
「でも、そのほうが本気の願いが残るんですよ」
何を願ったのか、私は聞かなかった。彼も聞かなかった。
けれど、隣で寝転がる彼の横顔を見ながら、私が心の中で唱えていた願いは、たったひとつだった。この夜が、できるだけ長く続きますように。
夜が更けて、流星が減っていく。冷えた空気の中で、彼の手が、シートの上でそっと私の手に近づいた。触れそうで、触れない。その数センチの距離に、心臓がうるさく鳴った。
結局、その夜、手は触れなかった。けれど、触れなかったことが、なぜかとても大切な思い出になった。
夜明けの気配が近づくころ、私たちは無言で空を見上げていた。願いはきっと、二人とも同じだったと思う。