第6話: 店長の秘密

うちの深夜担当の店長・沖田さんは、無口で、いつも賄いを食べている、影の薄い人だった。

同盟がどんなに騒いでも、「まあ、いいか」と放置する。ある意味、この混沌を許している元凶とも言える。

ある夜、その店長が、珍しく厨房から出てきて、同盟のテーブルに、そっとデザートを置いた。
「これ、試作品。よかったら、感想を」

見たことのない、手の込んだパフェだった。

黒田部長が、一口食べて、目を見開いた。
「……うまい。店のメニューより、はるかに、うまいぞ」
「本当かい」とスミレさんも一口。「あら、これ、プロの味だよ」

店長は、照れくさそうに頭をかいた。
「昔、パティシエを、目指してたんです。でも、お店が潰れて、夢を諦めて。今は、こうして深夜のファミレスの店長を」
「なぜ、パティシエに戻らんのだ」と夜宮さん。
「もう、若くないですし。それに、失敗するのが、怖くて」

同盟が、静まりかえった。それから、黒田部長が、立ち上がった。
「よし。本日の議題を変更する! 沖田店長の、夢再挑戦作戦だ!」
「え、いや、そんな」
「きみのパフェは、本物だ。それを、埋もれさせるのは、社会の損失である。私が、部長の名にかけて言う」

スミレさんが、スマホを取り出した。「あたし、SNSで宣伝するよ。深夜限定・幻のパフェってね。バズらせてやる」
佐々木さんも、身を乗り出した。「私、実は前職、マーケティングだったんです。集客、手伝えます」
吸血鬼は、よくわからないまま、拳を握った。「我も、念を送る」

店長が、目を潤ませた。
「みなさん……なんで、そんなに、僕のために」
「同盟だからだ」と黒田部長が、当然のように言った。「午前三時に、この店に集う者は、みな、なんらかの夢や事情を抱えている。だから、放っておけんのだ」

僕は、厨房の隅で、こっそり感動していた。

くだらない同盟だと思っていた。ドリンクバーの配合とか、割り勘のできない吸血鬼とか。でも、この人たちは、本気で、お互いのことを、応援している。

「三上くん」と店長が言った。「きみも、味見してくれるか」
「もちろんです」

パフェは、涙が出るほど、優しい味がした。深夜のファミレスの、隠し味みたいな味だった。

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