祖母の日記には、それ以上の対処法は書かれていなかった。
ただ、最後の走り書きに、こうあった。
『女は、三十七枚目の窓の外に、こちらの世界を見ている。窓が近づくほど、女もこちらへ来る。窓を、閉じさせてはならない』
窓が近づく。意味を考えて、私は残った一枚を、恐る恐る見つめた。
女性の背後の窓。そこには相変わらず、私が撮った風景が写り込んでいる。二本目で撮った、無人の公園。けれど、初めて写真に写ったときより、その窓が――大きくなっていた。まるで、女がその窓に近づき、こちら側を覗き込もうとしているかのように。
窓を閉じさせてはならない。だが、どうやって。
そのとき、玄関のインターホンが鳴った。
こんな時間に。時計は深夜二時を回っていた。モニターを覗くと、そこには誰も映っていない。ただ、カメラのレンズに、何か白いものが、べったりと張りついていた。
手のひらだった。
女の、白い手のひらが、インターホンのカメラを内側から覆うように、押し当てられていた。内側から。つまり、レンズの向こう側から。まるで、あの三十七枚目の「窓」の内側から、こちらを覗こうとするように。
私はモニターの電源を切った。心臓が破裂しそうだった。
部屋の中で、また、ガシャン、とシャッターの音がした。押し入れのカメラだ。しまってあるのに、勝手にシャッターが切られている。
カメラが、今、この部屋を撮っている。
私を撮っている。
もし、次の三十七枚目に――この部屋にいる私が写ってしまったら。祖母の日記の言葉が、頭の中で反響した。『その一枚に写った者は、女にかわりに連れていかれる』。
窓の外は、もう私の部屋だ。女の見ている「こちら側」に、私自身が入ってしまっている。
私は震える手で、押し入れを開けた。カメラを、止めなければならない。フィルムを、抜かなければ。中に、フィルムなど入れていないはずなのに。