第3話 老地図師
声の主は、小柄な老人だった。白髪を後ろで束ね、眼鏡の奥で目を細めた。
「銀の羅針盤を持っているのか。久しぶりに見た」
羅針盤を見せると、老人はしばらくじっと眺めた。「セラの店のものだな」
「知ってるんですか?」
「あの子の祖父と、若い頃に仕事をした。地図師同士でね」老人は羅針盤をそっと手渡し返した。「それは嘘をつかない。針が示す場所には、必ず何かがある」
「何かとは?」
「それは人によって違う。あなたに必要なものが、そこにある」
老人は棚から一冊の古い本を取り出した。白紙のページが大半を占めていた。
「地図は、歩いた者にしか描けない。同じようにあなたの『行くべき場所』も、歩いてみなければ分からない」
「でも最終的にどこへ向かうのか、分かりますか?」
老人は微笑んだ。「分かったら、羅針盤はいらない」
店を出ると、羅針盤はすでに新しい方向を指していた。
──(第4話へつづく)