それからというもの、藤沢さんは、しょっちゅう家に来るようになった。そして、レイと、すっかり仲良くなった。
「レイさん、この魚、どう料理したらいい?」
「ムニエルがよろしいかと。バターは、焦がしすぎないように」
「さすが。頼りになるわね」
「恐縮です」
俺そっちのけで、二人——一人と一台——は、料理談義に花を咲かせる。なんだか、俺が仲間はずれのような気がして、少し面白くない。
「おい、俺の存在は」
「あなたは、そこで、皿でも並べていてください」レイが、しれっと言う。
「ひどい!」
藤沢さんは、レイと話すのが、本当に楽しそうだった。彼女は、実は、少し寂しがりやなのだと、あるとき打ち明けてくれた。
「一人暮らしって、家に帰っても、誰もいないでしょう。だから、レイさんみたいに、話し相手がいる家って、すごく、いいなって思うの」
その言葉に、俺は、ある決意をした。
その夜、藤沢さんが帰ったあと、俺はレイに相談した。
「なあ、レイ。俺、藤沢さんに、いっしょに暮らそうって、言おうと思うんだ」
レイは、しばらく黙っていた。それから、静かに言った。
「いいと思います。彼女は、いい人です。あなたには、もったいないくらいの」
「一言多いんだよ」
「ですが」レイは続けた。「一つ、心配なことが」
「なんだ」
「彼女が来れば、この部屋には、三人になります。いや、二人と一台に。私は……邪魔に、なりませんか。しゃべる冷蔵庫など、新婚家庭には、不要かもしれません」
俺は、驚いた。レイが、そんなことを気にしていたなんて。
「ばか言うな」俺は、きっぱり言った。「お前がいなきゃ、俺は今も、腐った納豆と暮らす、しょぼい独身男のままだったんだ。お前は、家族だよ。何があっても、いっしょにいるに決まってるだろ」
レイは、しばらく、返事をしなかった。それから、少しかすれた声で、言った。
「……ありがとうございます。冷蔵庫冥利に、尽きます」
その声は、少し、泣いているようにも聞こえた。