第7話: 藤沢さんを家に

つきあいはじめて三ヶ月。俺は思い切って、藤沢さんを家に招くことにした。手料理を振る舞うためだ。

問題は、レイだった。

「藤沢さんが来るってことは、お前、しゃべっちゃだめだからな」俺は念を押した。「冷蔵庫がしゃべったら、彼女、腰を抜かすぞ」
「わかっています。私は、空気を読める冷蔵庫です」
「本当に頼むぞ。一言も、だ」

当日、藤沢さんがやってきた。俺は緊張しながら、レイに教わったレシピで、ロールキャベツを作った。何度も練習した、自信作だ。

「わあ、おいしそう。これ、全部、作ったんですか」
「はい。……口うるさい先生の、おかげで」

食事は、和やかに進んだ。藤沢さんは、俺の料理を、たくさん褒めてくれた。俺は、幸せだった。

だが、藤沢さんが、飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けた、そのとき。

「あ、そこの麦茶、昨日作ったばかりですので、新鮮ですよ」

レイの声が、響いた。

藤沢さんは、固まった。冷蔵庫を開けたまま、微動だにしない。

俺は、頭を抱えた。レイのばか。約束したのに。

沈黙が、部屋を支配した。俺は、必死に言い訳を考えた。腹話術? 録音? どれも苦しい。

すると、藤沢さんが、ゆっくりと振り返った。そして——にっこり、笑った。

「やっぱり。この子だったんですね。あなたに料理を教えた、口うるさい先生って」
「え……?」
「なんとなく、感じてたんです。この家に来たときから。あなたの他に、もう一人、あたたかい気配があるなって」

藤沢さんは、冷蔵庫に向かって、丁寧に頭を下げた。

「はじめまして。いつも、この人がお世話になってます」
「これはこれは、ご丁寧に」レイは、嬉しそうに応えた。「彼を、よろしくお願いします。少々、不器用ですが、いい男です」
「レイ!」

藤沢さんは、声をあげて笑った。俺も、つられて笑った。おかしな三人の、いや、二人と一台の、にぎやかな夜だった。

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