秋の気配が漂いはじめた頃、藤代さんはまた店に来なくなった。
一週、二週。三度目の水曜日が過ぎても、彼は現れなかった。私は店先で、色づきはじめた花たちを見つめながら、嫌な予感を抑えられずにいた。
おばあさんに、何かあったのではないか。
連絡先も知らない。名前しか知らない。私にできることは、ただ待つことだけだった。花屋の店員と、週に一度来る客。それ以上の関係ではないのだと、改めて突きつけられた気がした。
四度目の水曜日、閉店間際に、ドアベルが鳴った。
藤代さんだった。でも、その顔を見て、私はすべてを察してしまった。彼は静かに、けれど確かに、変わってしまっていた。
「祖母が、先月……」
言葉の途中で、彼は下を向いた。私は何も言えず、ただカウンターから出て、彼のそばに立った。
「最期まで、花を喜んでくれました。七海さんの選んでくれた花、全部、枕元に飾ってありました」
涙がこぼれそうになるのを、私は懸命にこらえた。ここで泣いてはいけない。彼のほうが、ずっと辛いのだから。
「今日は、お墓に供える花を」
私は頷いて、白と紫の花を選んだ。トルコキキョウ。花言葉は「感謝」「思いやり」。おばあさんへの、彼のありったけの気持ちを込めて。
包み終えたとき、彼が小さく言った。
「もう、水曜日に来る理由が、なくなってしまいました」
その言葉が、胸に刺さった。花を届ける相手を失った彼は、もうこの店に来ないのかもしれない。
私は思わず、彼の袖を掴んでいた。自分でも驚くほど、強く。
「理由なら」声が震えた。「理由なら、また作ればいいじゃないですか」