神様相談所で働くうち、私はある疑問を抱くようになった。
所長の宇迦さんは、何者なのだろう。神様たちは皆、彼に敬意を払っている。ただの人間ではなさそうだ。
ある夜、私は思いきって訊いてみた。
「宇迦さんって、もしかして、神様なんですか」
宇迦さんは、お茶を飲みながら、さらりと答えた。
「うん。僕、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)。稲荷の総本山みたいなもんだよ」
お茶を吹きそうになった。稲荷の大神。相当、偉い神様じゃないか。
「な、なんで、そんな偉い神様が、こんな相談所を」
「昔はね、神様も人間も、もっと近かったんだ。困ったことがあれば、気軽に神社に相談に来た。でも今は、みんな忙しくて、神様のことなんて忘れちゃった」
宇迦さんは、少し寂しそうに笑った。
「だから、せめて神様同士が助け合える場所を作ろうと思ってね。それが、この相談所。神様だって、悩むし、困る。誰かに頼りたい時がある」
「でも、それなら、なんで人間の私を雇ったんですか」
宇迦さんは、私をまっすぐ見た。
「神様だけだと、視野が狭くなるんだ。人間の発想が、必要なんだよ。君、いつも僕らが思いつかない解決策を出すだろう。貧乏神の再就職、雷神のダーツ、縁結びの発想の転換」
照れくさくなって、私は下を向いた。
「神様は、完璧だと思われてるけど、そうじゃない。だからこそ、人間の柔軟な考えが、僕らを助けてくれる。真希さんは、この相談所に、なくてはならない存在なんだ」
二千円のために始めたバイトだった。でも今は、少し違う気持ちで働いている。困っている神様を助けるのが、なんだか、嬉しいのだ。
「じゃあ、これからも、よろしくお願いします」私は言った。「時給、据え置きでいいので」
「あ、それ、逆に怪しいから、ちゃんと二千円払うよ」
宇迦さんが笑った。整った顔が、少年みたいに、くしゃりとなった。
この相談所、意外と、悪くない職場かもしれない。