藤代さんは、少しずつ変わっていった。
最初はただ花を買うだけだったのに、最近は花言葉を自分から尋ねるようになった。おばあさんに、その週のメッセージを届けたいのだと言う。
「今週の祖母、少し元気がなくて。励ましたいんです」
私はガーベラを勧めた。「希望」「前向き」。彼は真剣な顔で頷いて、赤いガーベラを一輪選んだ。
「花言葉って、伝言みたいですね」と彼は言った。「言葉にすると照れくさいことも、花なら渡せる」
その通りだと思った。私自身、いつも花に自分の気持ちを託してきた。
「藤代さんは、おばあさまに何を伝えたいんですか」
「――長生きしてほしい、って」彼は少し声を落とした。「でも本当は、それが難しいことも、わかってるんです」
私は何も言えず、ただ赤いガーベラをそっと包んだ。
「だから、一日でも笑っていてほしくて。花を見て、少しでも」
包み終えて渡すと、彼は花を胸に抱くように受け取った。
「七海さん。もし、僕が花言葉であなたに何かを伝えたら、わかってくれますか」
突然の言葉に、心臓が跳ねた。
「……わかる、と思います。私、花のことなら得意なので」
彼は少し笑って、「じゃあ、いつか」とだけ言った。いつか。その言葉が、雨上がりの空みたいに私の胸に広がった。
彼が帰ったあと、私はふと考えた。もし彼が花言葉で気持ちを伝えてくれるなら、私はどんな花を返すだろう。
店の隅に、まだ蕾のままのバラがあった。開くのを待つように、私の気持ちもまだ、そっと閉じていた。