バイトにもすっかり慣れてきた頃、華やかな女神が相談に来た。
桃色の着物に、きらびやかな装飾。縁結びの神様だという。だが、その表情は、どんよりと曇っていた。
「聞いてよ~! 私、大失敗しちゃったの~!」
「失敗、ですか」
「縁結びを間違えちゃって! 結ぶ相手を、取り違えたの! Aさんと結ぶべき赤い糸を、間違えてBさんに結んじゃって!」
縁結びの神様が、糸を間違える。あってはならないミスである。
「そのせいで、今、変な三角関係になっちゃってて~! どうしよう~!」
女神は、頭を抱えた。
宇迦さんが、ため息をついた。
「縁結びさん……あなた、また寝ぼけて仕事したでしょう」
「うっ……だ、だって、最近、恋愛相談が多くて、残業続きで……」
神様も、働き方改革が必要らしい。
「で、間違えた糸は、もう結び直せないんですか」私は訊いた。
「それが、一度結んだ糸は、簡単にはほどけないの~。無理にほどくと、両方傷ついちゃう」
難しい問題だった。私は考えた。取り違えた縁。でも――
「あの、それって、本当に『間違い』なんでしょうか」
女神が、きょとんとした。
「Aさんと結ぶ予定だったのを、Bさんに結んじゃった。でも、もしかしたら、Bさんとのほうが、うまくいくかもしれない。縁って、案外、そういう『偶然』から始まるものじゃないですか?」
女神は、はっとした顔をした。
「そ、そっか……! 間違いだと思ってたけど、これはこれで、新しい縁かも……!」
「様子を見て、本当にうまくいってないなら、その時に考えればいいんじゃないでしょうか」
数日後、女神が再びやってきた。今度は、満面の笑みで。
「真希ちゃん、聞いて! BさんとCさん、両想いになったの! 間違いが、最高の縁になったのよ~!」
「よかったですね」
「あなた、縁結びの才能あるわ! うちで働かない?」
「いえ、遠慮しておきます」
神様のスカウトを断ったのは、後にも先にも、私くらいだろう。