店長が帰ったあと、佐々木は、あることを思いついた。
「なあ、田村くん。俺、考えたんだけどさ」
「なんですか」
「このコンビニ、なんか知らないけど、気弱な強盗が集まってくるだろ? だったら、いっそ、俺が『強盗更生係』になったらどうかな、って」
「更生係?」
「そう。強盗が来たら、俺が説得して、真っ当な道に戻す。元強盗の俺なら、説得力あるだろ」
田村は、しばらく黙って考えた。
「……まあ、実際、効果ありましたもんね。この前のバンドマン」
「だろ?」佐々木は、得意げだった。「これは、社会貢献だぞ」
そんな話をしていると、また、自動ドアが開いた。
黒いパーカーの、若い女性だった。手には、包丁。
「う、動かないで! お金、出して!」
「お、来たな!」佐々木が、勢いよく前に出た。「若いの! やめとけ!」
女性は、びくりとした。
「な、なんですか、あなた」
「俺は、強盗更生係だ! コンビニ強盗なんて、割に合わねえ! 三千円と人生、釣り合うか!?」
女性は、ぽかんとした。
「……三千円?」
「深夜のレジには、それくらいしか入ってねえんだよ! な、田村くん!」
「はい、だいたい三千円です」田村が、いつものトーンで補足した。
女性は、包丁を持ったまま、へなへなと座り込んだ。
「……もう、やだ。強盗まで、失敗した」
泣き出してしまった。佐々木は、慌てた。
「お、おい、泣くなよ。えーと、事情を聞かせてくれ。なんで、強盗なんか」
女性は、しゃくりあげながら話した。母親の入院費が払えず、消費者金融にも断られ、追い詰められて――という話だった。
田村は、レジの下から、区役所のパンフレットを取り出した。
「医療費の、公的支援制度、ありますよ。高額療養費とか、生活福祉資金の貸付とか。相談窓口、ここです」
女性は、涙を拭いて、パンフレットを見た。
「……こんな制度、あったんですか」
「はい。強盗より、ずっと確実です」
佐々木が、しみじみと言った。
「田村くん……あんた、更生係より、優秀だな」
「いや、ただ、いろんなパンフレット、置いてあるだけです」
このコンビニのレジ下は、いつのまにか、あらゆる相談窓口の資料で、いっぱいになっていた。