第6話: 強盗研修

店長が帰ったあと、佐々木は、あることを思いついた。

「なあ、田村くん。俺、考えたんだけどさ」

「なんですか」

「このコンビニ、なんか知らないけど、気弱な強盗が集まってくるだろ? だったら、いっそ、俺が『強盗更生係』になったらどうかな、って」

「更生係?」

「そう。強盗が来たら、俺が説得して、真っ当な道に戻す。元強盗の俺なら、説得力あるだろ」

田村は、しばらく黙って考えた。

「……まあ、実際、効果ありましたもんね。この前のバンドマン」

「だろ?」佐々木は、得意げだった。「これは、社会貢献だぞ」

そんな話をしていると、また、自動ドアが開いた。

黒いパーカーの、若い女性だった。手には、包丁。

「う、動かないで! お金、出して!」

「お、来たな!」佐々木が、勢いよく前に出た。「若いの! やめとけ!」

女性は、びくりとした。

「な、なんですか、あなた」

「俺は、強盗更生係だ! コンビニ強盗なんて、割に合わねえ! 三千円と人生、釣り合うか!?」

女性は、ぽかんとした。

「……三千円?」

「深夜のレジには、それくらいしか入ってねえんだよ! な、田村くん!」

「はい、だいたい三千円です」田村が、いつものトーンで補足した。

女性は、包丁を持ったまま、へなへなと座り込んだ。

「……もう、やだ。強盗まで、失敗した」

泣き出してしまった。佐々木は、慌てた。

「お、おい、泣くなよ。えーと、事情を聞かせてくれ。なんで、強盗なんか」

女性は、しゃくりあげながら話した。母親の入院費が払えず、消費者金融にも断られ、追い詰められて――という話だった。

田村は、レジの下から、区役所のパンフレットを取り出した。

「医療費の、公的支援制度、ありますよ。高額療養費とか、生活福祉資金の貸付とか。相談窓口、ここです」

女性は、涙を拭いて、パンフレットを見た。

「……こんな制度、あったんですか」

「はい。強盗より、ずっと確実です」

佐々木が、しみじみと言った。

「田村くん……あんた、更生係より、優秀だな」

「いや、ただ、いろんなパンフレット、置いてあるだけです」

このコンビニのレジ下は、いつのまにか、あらゆる相談窓口の資料で、いっぱいになっていた。

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