俺は覚悟を決めて、対策を試みることにした。
まず、寝る場所を変えた。ワンルームのベッドから、リビングの床へ。少しでも「それ」の予測を狂わせられないかと思った。
その夜のログ。午前三時、歩数九十四。心拍百三十。そして二つ目の心拍は、俺のすぐ横で、静かに脈打っていた。
翌日、俺はカプセルホテルに泊まった。家を出れば、追ってこられないかもしれない。
甘かった。翌朝のログ。歩数九十六。場所は関係なかった。それは家を探しているのではなく、俺の眠りそのものを、追いかけていた。
最後に、俺は起きて午前三時を迎えることにした。三日連続で徹夜すれば、体は限界だ。でも死ぬよりましだ。俺は明かりを全部つけ、コーヒーを飲み、テレビをつけ、必死で目を開けていた。
午前二時五十八分。手首のウォッチが、震えた。
心拍の表示が出た。俺は起きているのに、心拍のグラフが、勝手に描かれていく。しかも、二本。
二時五十九分。部屋の明かりが、じじ、と音を立てて暗くなった。テレビの砂嵐。
三時ちょうど。
背後の廊下で、ぎし、と床が鳴った。歩数計が動いた。一歩。俺は振り向けなかった。二歩。三歩。近づいてくる。ウォッチの数字が、リアルタイムで増えていく。九十七。九十八。
首の後ろに、冷たい息がかかった。吸って、吐いて。俺の寝息じゃない、あの録音の呼吸。
九十九。
俺は目を閉じて、叫んだ。「田所さん、なんですか! 何が望みなんだ!」
呼吸が、止まった。
数字も、九十九で止まった。あと一歩。
耳元で、しわがれた声が、初めて言葉を発した。
「かわって、くれ」
俺は椅子から崩れ落ちた。気を失う直前、手首のウォッチが、ふっと軽くなった気がした。