スミレおばあちゃんは、六十三歳にして、ガチのアイドルオタクだ。
推しは、地下アイドルグループ「ミッドナイト・スターズ」の、リュウくんという二十歳の青年。深夜、スミレさんはSNSに張りついて、リュウくんの情報を追い続けている。
「三上や」とスミレさんが、スマホを差し出した。「見ておくれ。今日のリュウくん。国宝級だろう」
「はあ、かっこいいですね」
「かっこいい、じゃ足りないよ! 尊いんだよ! この世の奇跡なんだよ!」
すごい熱量だ。
ある夜、スミレさんが、珍しく落ち込んでいた。
「どうしたんですか」
「リュウくんの、握手会のチケットが、取れなかったんだよ。抽選に外れてね……。あたし、もう三年も、生でリュウくんに会えてないんだ」
しょんぼりするスミレさんを見て、同盟の面々がざわついた。
黒田部長が、腕を組んだ。「よし。ここは、同盟の力を結集しよう。チケット争奪、作戦会議だ!」
吸血鬼の夜宮さんも立ち上がった。「我が五百年の知恵を貸そう。……で、チケットとは、何だ」
「あんた、まずそこからかい」
結局、僕がスマホの操作を教え、黒田さんが「抽選必勝法」と称する謎の統計学を披露し(まったく役に立たなかった)、夜宮さんが「我が念を送る」と目を閉じて集中し(意味不明)、次のチケット抽選に、みんなで挑んだ。
数日後。
スミレさんが、涙目で店に駆け込んできた。
「当たった! 当たったよ! リュウくんの、握手会!」
店中が(といっても深夜の同盟四人だけだが)、わっと沸いた。
「やったな、スミレ殿!」と夜宮さん。「我が念が効いたか」
「あんたの念じゃないよ、たぶん」
スミレさんは、僕の手を握って言った。
「三上、ありがとうね。あんたがスマホ教えてくれたおかげだ」
「いえ、僕はただ操作を……」
「あたしね、旦那に先立たれてから、生きる楽しみがなくなってたんだ。でも、リュウくんに出会って、また明日が楽しみになった。あんたたちのおかげで、また、生で会える」
スミレさんの笑顔は、二十歳の乙女みたいだった。
推しは、人を生かす。午前三時のファミレスで、僕はひとつ、賢くなった。