レイの説教は、日に日にエスカレートしていった。
ある夜、俺がいつものようにコンビニ弁当を温めていると、レイが言った。
「あなた、料理をしたことがありますか」
「あるに決まってるだろ。……たぶん、五年前くらいに」
「五年」レイは絶句した。「そんな期間、私の中の食材たちは、ただ腐るのを待つだけの、悲しい存在だったわけですね」
「言い方!」
レイは、その夜から、俺に「食育」を始めた。
「まず、卵があります。賞味期限内です。ゆで卵くらいは作れるでしょう」
「めんどくさい」
「では、私が指導します。鍋に水と卵を入れて、火にかけなさい」
しぶしぶ従う。レイは冷蔵庫の中の食材を把握しているので、的確に指示を出してくる。
「沸騰したら、十分。半熟がお好みなら、七分」
「へえ、詳しいな」
「私は、十年間、あらゆる食材を見てきました。伊達に冷えているわけではありません」
できあがったゆで卵は、我ながら、うまかった。塩をふって食べると、なんだか、じんわり嬉しくなった。
「どうです。自分で作った味は」
「……まあ、悪くない」
「素直じゃありませんね。しかし、まあ、第一歩です」
それから、俺は少しずつ、簡単な料理をするようになった。野菜炒め、味噌汁、卵焼き。レイは、そのつど、あれこれ口を出してくる。「油が多い」「火が強い」「切り方が雑」。
「うるさいなあ」
「愛情です」
「気持ち悪いこと言うな」
だが、しなびた化石だった野菜室が、少しずつ、新鮮な野菜で埋まっていくのを見ると、なんだか、自分の生活が、まともになっていく気がした。
レイは、ある夜、ぽつりと言った。「あなたの部屋、少し、いい匂いがするようになりましたね。ごはんの匂いです」
俺は、返事をしなかった。ただ、少しだけ、照れくさかった。