第2話: マニュアルにない客

その男は、三日後、また現れた。

午前二時。自動ドアが開き、黒いパーカーの男が、包丁を握って入ってくる。今度は、ストッキングではなく、目出し帽をかぶっていた。

「う、動くな! 金を出せ!」

田村は、雑誌を読む手を止めずに答えた。

「あ、この前の人ですよね」

「な、なんでわかるんだ!」

「声、同じですし。あと、包丁、うちで先週売ったやつですよね。同じの、そこの棚に並んでます」

男は、びくりとして、自分の包丁を見た。

「……確かに」

「凶器、うちで買ったの、なんか複雑な気分ですね」田村は雑誌を置いた。「で、今日は何のご用です?」

「だ、だから、強盗だって言ってるだろ!」

「でも、この前、三千円と人生は釣り合わないって、納得してませんでした?」

男は、ぐっと詰まった。

「そ、それはそうだけど……こ、今回は、もっと大きいのを狙ってるんだ! たとえば、その、宝くじ売り場の……」

「うち、宝くじ売ってませんよ」

「……そうか」

男は、がっくりと肩を落とした。田村は、しみじみと男を眺めた。

「あのー、失礼ですけど、あなた、強盗、向いてないですよ」

「わ、わかってる!」男は、目出し帽の中で叫んだ。「でも、しょうがないんだ! 俺、借金があって、明日までに金が要るんだよ!」

「いくらですか」

「……八万円」

「八万円、コンビニ強盗で稼ぐの、無理ですよ」田村は真顔で言った。「捕まって、前科ついて、人生詰みます。それより、日雇いバイトでもしたほうが、確実です」

男は、目出し帽を、ずるずると脱いだ。

中から出てきたのは、三十代半ばの、疲れ切った顔の、ごく普通の男だった。

「……そうだよな」男は、深くため息をついた。「俺、何やってんだろ」

田村は、レジ横のホットスナックを、一つ、袋に入れた。

「フランクフルト、一本サービスします。元気出してください」

男は、少し驚いて、それから、泣きそうな顔で受け取った。

「……あんた、いい人だな」

「いや、ただ、廃棄予定だっただけです」

マニュアルには、こんな客の対応、載っていない。田村は、ため息をつきながら、それでも、なんだか放っておけない気がしていた。

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