冬が来て、街はイルミネーションで彩られた。
「花屋こもれび」の店先も、赤や白のポインセチアで賑やかになった。私は相変わらず、花に囲まれて働いている。ただ、以前と違うことが一つだけあった。
藤代さんが、水曜日じゃない日にも来るようになったのだ。
その日は木曜日だった。閉店間際、彼はいつものように紺色のコートで現れた。
「水曜日じゃないですよ」私は笑って言った。
「知ってます。でも、会いたかったので」
さらりとそんなことを言うようになった彼に、私はまだ少し慣れない。頬が熱くなるのを感じながら、花を並べ替えるふりをした。
「七海さん。今日は、花を選んでほしいんです」
「どなたに?」
「――一番大切な人に」
私は手を止めた。彼の目が、まっすぐに私を見ていた。もう、曖昧な答えではなかった。
私は少し考えて、深紅のバラを一輪、抜き取った。花言葉は「愛情」「あなたを愛します」。
「これは、どうですか」
彼はそれを受け取り、花言葉を知っているのだろう、少し照れたように笑った。そして、そのバラを、私に差し出した。
「これ、七海さんに」
店の中に、暖房の音だけが静かに響いた。私は震える手で、その一輪を受け取った。
「花言葉、わかりますよね」彼が言った。
「はい」私は涙をこらえて頷いた。「花のことなら、得意なので」
一輪だけの花。贈るには少なすぎて、飾るには寂しすぎると、あの日は思った。でも今なら、わかる。
一輪の花には、たった一人への、まっすぐな想いが込められている。
窓の外で雪が降りはじめた。私は深紅のバラを胸に抱いて、これから始まる、たくさんの水曜日を思った。きっと、どの曜日も、花みたいに色づいていく。