第8話 友人の一言
「お前、最近夜ふかしすぎじゃない?」
昼食を食べながら、友人の田島に言われた。学食で購入した定食を前にして、箸を止めることができずにいた。
「顔色悪いよ」
確かに鏡を見ると、目の下にはっきりとクマができていた。毎晩夜中まで起きているせいだ。スマートフォンの画面を見つめながら、涼花からのメッセージを待つ。彼女が眠れなくなるまで待つのが、いつの間にか日課になっていた。
「まあ、ちょっといろいろあって」と言うと、田島は即座に「女?」と返してきた。
その瞬間、自分の表情が変わったのだろう。田島の顔に確信が浮かぶ。
「当たった」と彼は笑った。
否定しなかったら、正解とみなされた。
「どんな子?」
どう説明しようか迷った。涼花の容姿?性格?それとも、彼女が自分の中で占める存在についてか。
「眠れない子」と言うと、田島は少し黙った。
その沈黙が、予想外に長く感じられた。友人の顔を見ると、彼はじっとこちらを見つめていた。何か考えているような、あるいは何か見抜こうとしているような、そんな表情だった。
「それって、お前が助けてあげてるの?それとも一緒にいたいの?」
ぶっきらぼうな質問だった。しかし、その言葉は自分の心の中に静かに落ちてきた。
「……どう違うの?」
自分でも曖昧な返答しかできなかった。自分がなぜ毎晩涼花を待つのか。その理由を明確に言葉にしたことがなかったのだ。
「全然違うよ」田島はきっぱり言った。
彼は食べ終わった丼を脇に置き、身を乗り出した。真面目な表情だった。学園生活で見たことのないような、本気の表情だ。
「助けてあげたいだけなら、それは恋じゃない。一緒にいたいなら、ちゃんと伝えないとずるい」
その言葉が、まるで槍のように自分の胸を貫いた。
「ずるい」という言葉が引っかかった。
自分は涼花のために何をしているのか。彼女が眠れずに苦しんでいるときに、話を聞く。話を聞くことで、彼女が心が少し軽くなるなら。そう思ってずっと深夜のメッセージに応えてきた。
でも、本当にそれだけなのだろうか。
深い夜中に、スマートフォンを握りながら涼花のメッセージを待つ自分。その感情は本当に「助けたい」という一心からなのか。それとも、もっと自分勝手な動機が隠れていないか。
「涼花にとって俺は、深夜限定の話し相手かもしれない」と呟いた。
「それ以上を求めるのが、迷惑かもしれない」
食堂の騒音が遠く聞こえた。周囲の生徒たちの笑い声、食器の音。それなのに、二人の間には静けさが生まれていた。
「だからって黙ったまま深夜に呼ばれ続けるのが、相手のためになるの?」
田島に正論を言われるのは初めてだった。しかもかなり痛いやつを。
彼の言葉は、自分が心の片隅で避けてきた問題を真正面から突き出していた。確かに、このままでいいはずがない。涼花に対して、自分が本当に何を求めているのか、いつか彼女に伝える日が来るはずだ。その時まで黙り続けることが、本当に彼女のためになるのか。
「考えてみる」と言って席を立った。
田島は何も言わず、こっくりと頷いた。その頷きが、妙に心強く感じられた。
放課後の校舎の廊下を歩きながら、自分は何度も考えた。涼花のために、自分にできることは本当に何か。彼女を助けることなのか。それとも、自分の気持ちを伝えることなのか。
答えはまだ出ていない。
でも少し、輪郭が見えてきた気がした。
このままではいけない。何かが、確実に変わろうとしている。その変化に怯えながらも、自分はそれを受け入れる準備をしなければならないのだ。
夜が来るのを待ちながら、自分は考え続けた。
──(第9話へつづく)