深夜二時のコンビニで幽霊に会ったとき、僕が最初に思ったのは「なんで傘持ってんだろ」だった。
雨は降っていない。降りそうでもない。でも彼女——たぶん女の人だと思う、透けていてよくわからないけど——は、ビシッと骨傘を持って立っていた。
場所はお菓子コーナーとアイスクリームの境目あたり。
「いらっしゃいませ」と言うべきか迷った。一応客は客だ。
「……傘を」と彼女は言った。「忘れていったんです」
「お預かりしてますか?」僕は傘立てを確認した。三本。ビニール傘が二本と、見覚えのない骨傘が一本。
「これですか」
「いいえ」と彼女は言った。「わたしの傘はここにあります」
自分で持ってた。
三十分後、彼女はまだアイスのコーナーにいた。僕は仕方なく声をかけた。
「あの……何かお探しですか」
「忘れ物を」
「傘は……持っていますよね」
「傘じゃないんです」と彼女は言った。「もっと大切なものを」
僕は落とし物ボックスを持ってきた。財布、イヤリング、スマホケース、ぬいぎるみのキーホルダー。
「これの中ですか?」
彼女はしばらく見ていた。
「……ぬいぎるみ、かわいいですね」
「落とし物ですけど」
「わたしのじゃないです」
結局、閉店時間の五時まで彼女はいた。何も見つからなかったらしい。
帰り際に彼女は言った。
「また来ます」
「お待ちしております」と僕は言った。
翌日、店長に報告したら「ああ、あの子ね。もう五年来てるよ」と言われた。
五年間、見つかっていない。
まあ、僕も自分の大切なものが何かわからなくなる夜があるから、少し気持ちはわかる気がした。