午前三時に電話が鳴ることは、もうないはずだった。
画面には「非通知」と表示されている。
莉子はしばらくスマートフォンを見つめていた。布団の中、暗い部屋、遠くで走る車の音だけが聞こえる。
出る必要はない、と思った。でも手が勝手に動いていた。
「……もしもし」
返事はなかった。
ただ、かすかな息づかいがあった。
「誰ですか」
また沈黙。でも確かに、誰かがいる。
「……莉子」
低い声だった。掠れていて、遠くて、でも間違えようのない声だった。
莉子は息を呑んだ。
その声は、三年前に死んだ兄のものだったから。
翌朝、通話履歴を確認した。
午前三時の着信は、どこにも残っていなかった。
それから莉子は毎晩、スマートフォンを枕元に置いて眠るようになった。
怖いからではなく、もしまたかかってきたときに、今度はちゃんと話したかったから。
電話は、二度とかかってこなかった。