俺とお前と深夜の攻防 第6話「俺の友人来訪」

第6話 俺の友人来訪

大学の友人、松本が来た。

金曜日の午後、松本から「今週末、そっち行ってもいい?」というLINEが来たのは予想外だった。ここのところ、寮での生活が規約だの何だのと話題になっていて、松本も好奇心を持っていたのだろう。返事をしたら、翌日にはもう玄関の前に立っていた。相変わらずフットワークの軽い奴だ。

「ここが噂の規約ルームか」と言いながら入ってきた松本の目は、部屋の中をきょろきょろと動き回っていた。規約の存在は大学内でも広まっていたらしい。友人たちの間でも「お前の友人、ヤバイ奴と一緒に住んでるんだろ」と冗談のように言われることが増えていた。俺自身も、その話題には曖昧に笑って返すしかなかった。

田中は松本を見ると、礼儀正しく立ち上がって挨拶した。その真摯な態度は、何度見ても変わることがない。その後、田中は「来客受け入れ確認書にサインをお願いします」と言ってA4の紙を差し出した。

松本はそれを見て、目を丸くして固まった。「なにこれ」という短い声が漏れた。紙には細かい文字がぎっしりと並んでいた。

「来客者が規約の内容を了知したことを示す書類です。署名と日時の記入をお願いします」田中は淡々とした口調で説明した。

「いや俺関係ないよね、規約。別に俺とお前の生活だし」松本は紙を持ったまま、田中を見た。いかにも納得がいかないという顔をしていた。

「来客も滞在中は準規約適用対象です。第26条付則B。詳しくは確認書の裏面に記載されています」

「付則ってなに。Bって何種類あるの。A、B、C……全部あんの?」松本の質問は次々と続いた。

俺は「まあまあ、サインしちゃえよ」と止めようとしたが、松本が「分かった、分かった。サインする」と言ってしまった。好奇心が誠意に対する不信感を上回ったのだろう。ボールペンで署名を済ませた松本は、「こんなのお前は毎日こなしてるの?」と俺に聞いた。答えは「大体」だった。

夜になると、三人でゲームをしながら過ごすことになった。リビングの小さなテーブルを挟んで、松本とコントローラーを握っていた。田中もときどき横から指示を出したり、アドバイスをしたりしていた。いつもとは違う空気が流れていた。

ゲームの合間に、松本が言った。「なあ、田中って、マジメだね」

「そう?」と田中が返した。いつもの無表情な返答だった。

「いや、規約とかめんどくさいのに、ちゃんと考えてるじゃん。こういうの、普通は面倒だから手抜きするのに。コイツのこと、ちゃんと考えてるから規約作るんでしょ。愛情というか……」松本は画面を見ながら続けた。

田中が少し黙った。数秒の間があった。その間に、ゲームの効果音だけが部屋に響いていた。

「……誠意、だから」田中が静かに言った。

その一言は、松本の心に何か響いたのだろう。松本はコントローラーを握る手を緩めて、「その誠意、ちゃんと伝わってるよ。少なくとも俺には」と言った。

俺は何も言わなかったが、なんか照れくさかった。背中がむず痒い感じがした。松本の言葉が、ずっと心のどこかで疑問に思っていたことの答えになったような気がしたのだ。規約は単なるルールではなく、二人の関係を成り立たせるための必要なものだったのだ。それは面倒なものではなく、誠意の表現だったのだ。

──(第7話へつづく)

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